リシュリュー館での2週間 その3


この2週間では綴じの練習も行いました。

支持体がコードのもの、テープのもの、支持体なしのものです。
支持体がないものはアラブ綴じです。
コード綴じはコードが1本のもの、2本のものがあり、コードへの糸の絡め方も数種類あります。

支持体があるものはすべてかがり台を使います。

かがり台という道具は12世紀から使われているそうです。
大きな本用の大きなかがり台もあるのですが、余裕がなくて写真がありません。

またこの2週間でパーチメントのしわのばしや補修も教わりました。
補修では、破れたところを糸で縫う方法とパーチメントのテープを薄くして貼る方法、そして欠損をパーチメントで補うというものでした。写真は糸で縫う方法を練習したものです。

リシュリュー館で皆さんが補修している資料をみていると本文はパーチメントに書かれていて表紙は厚い板に革装というものがほとんどでした。

とりあえずリシュリュー館での研修のご報告はこのへんにいたしまして、次回からはトルビアック館に戻っての研修をお伝えし、なんとか、現在行っている研修に追いつくようにしたいと思います。

リシュリュー館での2週間 その2


こちらの図書館では書簡や挿絵、楽譜などそこそこのサイズの1枚ものが多数あります。
それらは1枚ごとに紙で足継ぎをして、それから丁にして綴じ表紙をつけます。
私が実際の資料で実習させていただいたのはたった4枚の楽譜をハードカバーの本にするというものでした。
4枚に足を付け、見返し紙とともに綴じ、背を丸み出し、耳出しまでして本に仕上げるというものでした。
さすがにそんな薄い実際の資料の丸み出しや耳だしは私にはできず、ベテランの方がしてくださったのですが、そんなに薄い本でもきちんと背が丸くなっているのには感激しました。残念ながら写真はないのですが・・・。

というわけで、その足継ぎはとても重要で、様々なパターンがあります。
ページの大きさが揃っているものはいいのですが、全部の大きさが違うもの、ペラ状の中にたまに折丁で残っているものなど。また書簡には封筒が入っているものもありますし、小さな切り取りだけのものもあったりします。
それらを1冊の本にするかつ、背と小口を同じ厚さにということで、足継ぎをする紙の厚さや枚数の調整は簡単ではありません。

また足継ぎしたものを折るときに、出来上がりサイズの大きさのボードを切り、一方の縁を斜めにそぎ、それをガードに折っていくのです。大は小を兼ねるというわけでなく、一回一回このできあがり寸法でのボードをつくるのです。

研修では楽譜をのぞいてはこの足継ぎまでしかしていませんが、今回は5種類の方法を習いました。


つづく


リシュリュー館での2週間


トルビアック館で4日間の図書館製本と補修製本の準備の研修の後は、リシュリュー館での研修でした。
リシュリュー館は年明けに本格的な研修をさせていただきますが、今回はまず2週間だけ、「Plaçure」の研修でした。
「Plaçure」は適当な日本語訳はないのですが、あえていえば「下ごしらえ」なんだそうです。

この2週間では主に、
・破れや欠損の補修(紙・パーチメント)
・様々な花ぎれの練習
・しわのばし(紙・パーチメント)
・紙で足をつける
・綴じの練習
などを教えていただきました。

まずは破れと紙の欠損の補修です。

欠損の補修は、日本の職場ではすべて和紙での補修をしていましたが、こちらでは和紙ももちろん使いますが、洋紙も使います。
洋紙の場合、穴より少し大きめに補修用の紙を切り、その周りを削って薄くして段差が出ないようにします。
そしてのり付けした部分の上にごく薄い和紙をのせて乾かし、乾燥したらそのごく薄い和紙を削り取ります。これにはメスが大活躍します。


大きな穴と破れの補修の次は花ぎれの練習でした。
色を使わないもの、2色どり、3色どりのもの、その中でも数種類の方法があり、何度も練習します。
花ぎれ練習用の本は背の上下にパーチメントが貼ってあります。何度もできては切りを繰り返してます。


ほとんどは捨ててしまいましたが、このようにできては切って練習します。


つづく

館内補修の準備


図書館製本の準備の後は補修製本の準備の研修でした。

こちらは4名で担当しています。
補修も一部は外注に出しています。またトルビアック館だけでなく、郊外にある保存施設内のアトリエなどに振り分けられます。補修に出すものも補修から返ってきたものもどちらも1冊1冊プチプチの袋に入れられています。


ソフトカバーで仮綴じの状態のものを綴じ直して表紙をつけるものや革装の本の補修などなどの準備をします。
資料の大きさをはかったり、どの部分をどのようにとっておくかを指定してパソコンで入力していくのは図書館製本のところと同じなのですが、こちらでは、1ページごとに注意深く補修が必要なところを見ていきます。角の折れ目や破れがないか、汚れがひどいところがないか等々です。


新しく表紙をつけるものは、あらかじめ所管課から指定されていますが、こちらでももう一度確認します。
そして、コメントを書き込んでいきます。たとえば、
「半革製本 11番の緑のヤギ革で/ドライクイーニング/消しゴムを使ったクリーニング注意深く/表紙の補修、タイトルページの前の挿絵のページは紙を継ぐ/角の折れ目直し/ページの上部がつながっているところを切る/P93とP169から176の補修」
というように指定します。また箔入れは機械製本とは違い、革に金箔押しをするので、どの活字を使うか、続き物であればコピーが添えられています。


補修だけの場合は、3時間以内の仕事、10時間以内の仕事に分けられます。
そして出来上がった指示書をこちらもまた違う人が再度確認して、資料と一緒に補修や製本にまわされます。


返ってきたものを検品も入念にします。指示書どおりになっているか、また補修のみの場合には補修報告書も添えられてきますので、どのような補修をしたかも確認します。このチェックはけっこう厳しくされていました。もちろん、指示通りになっていないと戻してやり直しです。

指示書です。1冊に1枚あります。

外注製本の準備


研修のスタートは外注製本の準備の部署からでした。
フランス国立図書館(以後BnF)では、図書と逐次刊行物の両方を外注製本に出しています。


まず、資料を持っている所管課で製本に出したい本を選びます。
1年間に製本に出す冊数は決められていて、スケジュール通りに保存部に運び込まれます。
それらを保存部の外注製本担当部署で準備します。


こちらの担当は11名で、ローテーションで登録、点検、梱包、検品を行っています。
図書と定期刊行物、そして閲覧用か書庫本かに分けられています。
年間45000冊を3社に分けて製本に出しています。


登録は一冊一冊注意深く本を見ながらパソコンに入力します。
まず本の寸法(長さ×幅×厚み)を入力して、その本がどのような形態であるか、紙の種類、綴じの種類、ノド部や本文に余白はあるか、挿入物の有無、カバー、表紙のどの部分をどのようにとっておくか(情報があればすべて保存します)クロスの色はどうするかなどなど細かく入力します。すると自動的にどういう製本になるとコンピューターが判断します。製本方法の分類は図書6種類、定期刊行物8種類の計14種類で、その方法によって業者が分かれます。そして最後に「決定」を押すと背文字の設定画面にうつります。


本のタイトルや大きさはすでに登録されているので、こんな感じになりますと自動的に出てきますが、入りきらない場合はこのように入れるべしと指定をします。定期刊行物など続き物は、これまでと同じものが出てきますので、号数の入れ替えをします。図書の場合は、背の幅が薄ければ1行で背と平行に、厚みがあればクラッシックと呼ばれる背と垂直方向に文字を入れるようにします。背文字入れにも事細かにルールがあります。

入力した情報は打ち出して、1冊に1枚の指示書を挟み、点検担当が内容をチェックします。

その後、梱包をして、出荷します。

製本を終えた資料は、指示書が挟まれたまま戻ってきますので、その指示通りになっているか点検します。
折り込み地図などはすべて裏打ちされます。また、切り取り線があるものも裏打ちされます。
資料に関係のある挿入物も紙を足すなどして一緒に製本されます。(私が見たのはナショナルジオグラフィックの定期購読のチラシでした)

ほんとうに書ききれないくらい、製本の方法にも背文字入れにも事細かにルールが決まっていました。
そして一冊一冊の本がとても大切に慎重に扱われていることに驚きました。

表紙の角は丸いです。見えますか?むむむ見えないですね。

ここを一番はじめに研修させていただいたおかげで、製本用語を一気に知ることができました。(頭がバクハツしそうでしたが・・・)

はやいもので


一ヶ月が経ちました。
ほんとうにあっと言う間でした。
なのに研修内容をきちんとお知らせしておらず、永田町方面よりそろそろ内容もというお声をいただきましたので、今後はどのような研修をしているかをお伝えしたいと思います。


研修お願いするにあたり、フランスでは資料保存業務全般に書籍と紙の保存の実技を中心にという希望を出しました。デジタル化に関するものは省いています。すると、10ヶ月間のカリキュラムを組んでくださいました。いまのところ順調に進んでいます。


これまでの1ヶ月は
初日にオリエンテーション
そして、外注製本について
館内製本と館内補修について4日間、

その後2週間、リシュリュー館で中仕事といいますか、本の中身の部分に関する補修や準備についての研修を受けました。


現在はトルビアック館に戻り、1ヶ月の予定で、館内での手製本について研修中です。
これから年内はトルビアック館で過ごし、年があけてから3ヶ月はリシュリュー館での予定です。

突然の訪問者


文化遺産の日の興奮冷めやらぬ月曜日。
みなさんは日曜出勤の疲れなどみせず、昨日はよかったなど感想を楽しそうに話しています。
そんな中、「午後に見学はいるから」「何時ですか〜?」「2時半くらいらしいよ。」

ところが、2時半を過ぎてもまったく現れる気配なし。
3時半になってようやく、いま下の階にきてるらしい。とのこと。
そして、4時すぎになってようやく到着。


見学者はなんとクリストファー・クラークソン氏!!


クラークソン氏については、ほぼ日刊資料保存 2008年3月13日の記事をご参照ください
http://www.hozon.co.jp/hobo/hobo0803.html

なんと言いましょうか、ブックコンサベーション界の重鎮のお方であります。
2003年には来日され、私とは涙の再会!!のはずが、まったく覚えておられず(当たり前ですが)、資料に一目散に向かって行かれました。


私が研修を受けている部屋には約10名が修復の仕事をしています。
ほぼ全員が、本文はパーチメントに書かれていて表紙は革の古い手稿本の修復をされています。
ですので、修復室には10冊以上の貴重な手稿本があるのです。それらに対して、「何世紀の本でどういう修復をしている」とか、「それには何を使う?」などなど、クラークソン氏も「私が以前このような本を修復したときはこうだった」とか、話し合っています。こちらのみなさんは、とても一生懸命フランス語なまりの英語で話し、聞いたことはノートにメモをし、クラークソン氏の話に耳を傾けています。

すぐに時間が経ってしまい、帰らなくてはいけない時間になってしまいました。なんと日帰りなのです!

それではまた!と一人一人と握手をして(なんと私にも♡)帰られて行きました。
フランス国立図書館は初めて来られたそうで、帰られてからみなさん「これじゃ、時間が足りないわ。また別の機会に来てもらいたい。もっとたくさん話を聞きたい!」と上司にお願いしていました。

しばらくして、私も失礼しますと帰ろうとしたら、階段のところで、まだクラークソン氏にくらいついて質問をしている人が・・・。

英仏のコンサバターの情熱に感動した日でありました。


次回こそ、研修の内容にいたします。申し訳ありません。